
かつて働いていた職場でいざこざになった高校生二人組のうち、その片割れの一人と街中で座って話している。
場所は個人商店の前にある小さな石段。雰囲気はあの街の現地の近くといった感じだ。俺が下から二三段辺りに座り、何故か後ろで脚を広げこちらの体をそのあいだに挟む、妙な体勢でI岡が座っている。元高校生は時々近くの地面に腰を下ろし向かい合い、また背を向け身体を左右に揺らしながら周囲を小さな輪を描くように歩く。
俺は目の前をふらふらしている相手に、人生ではどれほどの困難が待ち受けているのか、お前たちの知っている世界はどれほど狭く、またどうやって生きていくことが正しいことであるかなどをそれとはなしに語っている。一応話を聞く姿勢を向こうは持っているようだった。当時よりも少しだけ大人になって落ち着いたのか。
こちらにも怒りや不快感、憎しみなどの感情はあまりなく、であっても話しているときには相手に色々と教えることを通して、どれほど自分たちが無知無力であるかを知らしめさせたいと思っている。それとなく不安や悲観の植えつけによって頭を抑えつけてやれればいいと、ちょっとした復讐心も混じっている。
現在座っている石段から十メートル程度先に、薄めの灰色によれた半袖のYシャツ、下は群青色のだぶついたスラックスと風采が上がらない男性(ホームレスよりは小奇麗にしているが、生活保護を受け昼間から何することもなく街をふらふらとしているイメージ)がいて、近くの植え込み周辺を手ぶらでウロウロしていた。何かを探しているようにも漁っているかにも見えた。どちらにしろ安酒に呑まれている酔っぱらいの調子で、顔はニヤついている。
元高校生は当時を思い出させる相変わらずのイヤな顔をしだして、目の前の男性にちょっかいを出そうと窺っているみたいだった。その人に何かをすれば、俺は少年を躊躇なく遅疑なく全力で殴ろうと、自分の中で固く強く決意する。目的もはっきりせず所在なげに、あるいはめぼしいものがないか探しているのかもしれないが、昼間の街中で自らが異様な姿として目立つことすら気付かず、植えこみ周辺をウロウロしているように見える男性の姿は情けなく、醜いと言っていいものだった。
しかし様々な辛苦を経験してきた人生である。末に現在の惨めとも映る状態になったのだろう。あくまでもおそらくだが。
家族だったり、例えばだが支援機関の人間や役所の生活保護課の人間に生活態度を指導され、改善を促されるために多少きついことを言われるのは場合によっては仕方ない、あるいは必要であるとも言える。ただ、何の苦労もせずに親に甘やかされ庇護されて育てられてきただけの子供(夢の中では二十歳くらいのイメージ。大学生の雰囲気はなく、フリーターかニートという感じでまだ親の脛かじりをしているようだった)が、彼の存在を否定したり目の前の姿を馬鹿にしたりするのは絶対に許せない。